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インフルエンザワクチンについて

2015-2016シーズンは10月1日より接種開始しました。予約制ではないので電話で在庫を確認のうえご来院ください。

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インフルエンザの問題点

 インフルエンザはA型またはB型インフルエンザウイルスが呼吸器に感染することによって起こる病気です。イインフルエンザは伝染力が強く、毎冬のように短期間に集中して百万人単位で大勢の人が罹患するために、健康被害のみならず社会活動にも大きな影響を与えます。

 一般にインフルエンザは、感染後1〜2日の潜伏期の後に38度以上の発熱をもって突然発症し、初期には頭痛、全身倦怠感、関節痛、筋肉痛などの強い全身症状を示すことが特徴です。その後せき、痰などの呼吸器症状が現れて、数日の間寝込まざるを得ない状態が続きますが、通常は1週間以内に回復します。

 しかし、インフルエンザは他のかぜ(普通感冒)にくらべて極めて危険な病気なのです。特に、65歳以上の高齢者、乳幼児、妊婦、さらに年齢を問わず呼吸器系や循環器系に慢性疾患を持つ患者、糖尿病などの慢性代謝性疾患、慢性腎不全など腎機能異常の患者、免疫低下状態の患者などでは、インフルエンザに罹患すると、入院を必要とする肺炎・気管支炎などの重篤な合併症がもたらされ、更には死亡する危険性が数倍から数百倍にも増加します。

 これらの人々はインフルエンザにおけるハイリスク(高危険)群とよばれます。現在国民の6人に一人は高齢者であり、今後社会の高齢化が進むにつれて、このようなハイリスク群における健康被害の増加がインフルエンザにおける大きな問題となってきます。今後のインフルエンザ対策の重点は、高齢者を中心としたハイリスク群の健康被害をいかに減らすかという点にあります。

インフルエンザの予防

 このようなインフルエンザによる健康被害を防ぐにはどうすればよいでしょうか。ウイルス感染そのものを完全に防ぐことが出来ればいいのですが、現在のところ残念ながらそのような方法は存在しません。

 人ごみを避けたり、患者との接触を絶って感染の機会を減らすとか、寒気をさけて十分な栄養と休息をとって体力を保つとか、うがいや手洗いを励行するなどの一般的な予防方法は、消極的ですが効果はあり、是非とも心掛けるべきことです。

 A型イインフルエンザウイルスの増殖をおさえるアマンタジンという医薬品が1998年末から認可になりました。しかし、これはB型インフルエンザウイルスには無効であり、A型に対してもその効果は症状を軽減して回復を1〜2日早める程度ですし、さらに様々な副作用の報告もあるために、一般的には多くの期待をかけるわけにはいきません。

 インフルエンザ予防対策の中心は予防接種であるということが世界的に広く受け入れられています。しかし、わが国ではインフルエンザワクチンに対する疑問や不信感をもっている人が多いのではないでしょうか。そこで、インフルエンザワクチンに対する理解を深めるために、インフルエンザワクチンについて説明したいと思います。

インフルエンザワクチンとは何か

 現在のインフルエンザワクチンは、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスを発育鶏卵に接種して増殖させ、漿尿液から精製・濃縮したウイルスをエーテルで部分分解し、更にホルマリンで不活化したものです。ウイルス粒子そのものを不活化した全粒子ワクチンと区別するために、HAワクチンと呼ばれています。日本でインフルエンザワクチンが本格的に導入されたのは1957年のアジアカゼ大流行の時ですが、当時は全粒子ワクチンでした。

 ワクチン接種後に長期間にわたって強い感染防御免疫が誘導されるポリオワクチンや麻疹ワクチンとは異なり、インフルエンザワクチンは、ウイルスの感染やインフルエンザの発症を完全には防ぐことは出来ません。ここに現在のインフルエンザワクチンの限界があります。

 しかし、後で述べるように、インフルエンザワクチンには、ハイリスク群がインフルエンザに罹患した場合に、肺炎等の重篤な合併症の出現や、入院、死亡などの危険性を軽減する効果が世界的にも広く認められています。世界保健機構(WHO)をはじめ世界各国がハイリスク群に対してワクチン接種を積極的に薦めている理由もここにあります。

日本におけるワクチン集団接種方式の導入

 インフルエンザは高齢者などのハイリスク群にとって大きな脅威ですが、誰がインフルエンザウイルスの感染を受けやすいかというと別の問題となります。感染経験の少ない学童生徒が最もインフルエンザに罹りやすく、彼らが集団生活をする学校がウイルスの主な増幅場所であり、従ってインフルエンザは学童生徒によって学校から社会へと広がっていくという考えがあります。

 この考えに基づいて、1962年にわが国では、社会全体のインフルエンザを制圧する目的で、全ての学童生徒を対象としたワクチンの集団接種が開始されました。

 その後、ワクチン製造に用いる発育鶏卵の品質管理や精製技術の改良が行われ、1972年にエーテル処理によるウイルス脂質成分の除去法が導入されて現行のHAワクチンが実用化されました。これによって、局所反応や発熱、ショック、神経系の後遺症等の重篤な副反応・副作用の出現は減少し、現行ワクチンは世界的に見ても安全性の面ではほぼ満足のいくものと評価されています。

インフルエンザワクチン集団接種方式に対する見直しの経緯

 一方、我が国における学童生徒の集団接種方式を巡って、科学的ないし社会的な面から様々な議論がありました。社会全体のインフルエンザ流行を防ぐために学童生徒全員にワクチン接種を強制するのは人権問題であるとの批判、また学童生徒全員にワクチン接種しても社会におけるインフルエンザの流行は制圧されていないとの批判など、ワクチンの接種目的、接種対象、接種方式に対する様々な批判が起こってきました。また必ずしも科学的評価に耐えられない多くの野外試験の成績と誤った解釈によるワクチン無効論が唱えられ、まれに起こる重篤な副作用に対する行政対応が必ずしも適切ではなかったことが強調され、更にそれらに基づく様々な誤解から生じたインフルエンザワクチン全体に対する不信感がマスメディア等によって増幅されました。その結果、1980年代後半からワクチン摂取率が急激に低下していきました。

 これらの批判とは別に、80年代後半には、インフルエンザなどの感染症は本人の責任で防止に努めるべきであるという個人防衛の考え方が起こってきました。1994年の予防接種法の改正に際しては基本的にこの考え方が導入され、インフルエンザワクチンは法律に基づく臨時の定期接種からはずされて任意接種になりました。この結論に至った経緯や議論に関する説明が報道等で十分なされなかったためハイリスク群に対するワクチン接種の意義などの情報も少なく、「国がインフルエンザワクチンは無効であることを認めたので、従来の強制集団接種方式を廃止した」との誤解が生じました。そのためワクチン接種を受ける人は極端に減ってきています。これは、WHOをはじめ世界各国のワクチン政策とは完全に逆行するものであり、近く出現が予想される新型インフルエンザ大流行への対策を検討する上でも大きな問題となっています。

インフルエンザワクチンの効果

 現行のインフルエンザワクチンは、ウイルスに対する感染防御や発症阻止の効果は完全ではありません。従ってワクチンを接種してもインフルエンザに罹患する場合があります。

 ここで注意すべきことは、一般にはインフルエンザと「かぜ」が区別されずに混同されていることです。インフルエンザワクチンはインフルエンザウイルスにしか効果を示しませんが、「かぜ」の原因となるウイルスは100種類以上もあります。ほとんどの人は冬季には「かぜ」に罹患しますので、これらのインフルエンザウイルス以外の「かぜ」ウイルスの感染をうけて「かぜ」をひいた場合でも、「ワクチンを接種したのにかぜをひいてしまったので、ワクチンは効かない」との誤解が生じることとなります。

 インフルエンザワクチンの効果に関しては、ワクチン接種をしなかった場合におこる危険性をワクチン接種によってどのくらい減らすことが出来るかという相対危険で表わすことが合理的であるとされています。しばしば「有効率75%」などの言葉が使われていますが、これは、「ワクチン接種者100人のうち75人が発症しない」ということではなく、「ワクチン接種を受けずに発症した人の75%は、接種を受けていれば発症を免れた」ということを意味しています。このことが理解されていないことも、インフルエンザワクチンの効果に対する不信感を助長してきた一因であると考えられます。

 また、インフルエンザワクチンの有効性を評価する際には、どのような環境で生活するどのような人を対象として、何をもって効果判定の指標とするかを明確にしておくことが大切です。これがあいまいですと、ワクチン効果についての討論も噛み合わなくなってしまいます。

 これまでわが国では、ハイリスク群に対するインフルエンザワクチン接種を積極的には行ってこなかったので、ハイリスク群におけるワクチンの効果についての詳しい研究成績はほとんどありません。一方、米国では毎年のようにワクチンの効果を調べて公表しています。これによりますと、ワクチン接種によって、65歳未満の健常者についてはインフルエンザの発症を70〜90%減らすことができます。また、65歳以上の一般高齢者では肺炎やインフルエンザによる入院を30〜70%減らすことが出来るとされています。老人施設の入居者については、インフルエンザの発症を30〜40%、肺炎やインフルエンザによる入院を50〜60%、死亡する危険を80%、それぞれ減少させることが出来るとされています。

 このように、インフルエンザ]ワクチンの効果は100%ではありませんが、高齢者を中心としたハイリスク群において、肺炎などの合併症の発生や入院、死亡といった重篤な健康被害を明らかに減少させる効果が示されています。これはWHOをはじめ世界各国でも広く認められており、この事実に基づいてハイリスク群を主な対象としたワクチン接種が勧告され、その実施が積極的に進められています。

 従って、わが国でも、ハイリスク群の健康被害を防ぐことを第1の目標として、インフルエンザワクチン接種を積極的に奨める必要があるものと考えられます。

インフルエンザワクチンの問題点

 現行のインフルエンザワクチンの効果は100%ではなく、決して満足できるものではありませんが、その問題点としていくつかの要因が議論されています。これらのインフルエンザワクチンの問題点について以下にまとめてみます。

(1)A型インフルエンザはヒト以外にトリ、ブタ、ウマなどを自然宿主とする人獣共通感染症ですので、天然痘やポリオなどのようにヒトにワクチン接種をすることによってインフルエンザウイルスを根絶することは不可能です。

(2)現行ワクチンの感染防御効果や発症阻止効果は完全ではありませんので、ワクチン接種を受けてもインフルエンザに罹患する場合があり、この場合には患者はウイルスを外部に排泄し、感染源となります。従って、集団接種を行っても社会全体のインフルエンザ流行を完全に阻止することは難しいと考えられます。

(3)インフルエンザウイルスの表面にある赤血球凝集素(HA)という糖蛋白が感染防御免疫に関る主要なウイルス抗原であり、HA蛋白に対する免疫が感染防御に中心的な役割を果たしています。しかし、HA蛋白をコードするHA遺伝子には頻繁に突然変異が起こるために、HA蛋白の抗原構造が次々と変化します。その結果、これまでに感染やワクチン接種をうけて獲得された免疫では十分に対応できないような抗原変異ウイルスが生じます。このような以前の免疫から逃れた変異ウイルスが次々に出現して新たに流行を起こすことになります。従って、インフルエンザでは1回のワクチン接種で終生免疫を付与することは出来ません。
 また、ワクチンによる感染防御免疫は抗原性が大きく異なるウイルスには働きません。従って、流行ウイルスとは大きく抗原性がずれたウイルスから作られたワクチンを接種しても、流行ウイルスに対するワクチンの効果は期待できないことになります。実際には赤血球凝集抑制試験という方法で測定した抗原性に8〜16倍以上のずれがあると、ワクチンの効果はあまり期待できないとされています。
従って、インフルエンザワクチンにおいては、常に次のシーズンの流行ウイルスの抗原性を的確に予想し、この流行予測に基づいて適切な抗原性を持つウイルスをワクチン株として選択していかねばなりません。最近では、WHOを中心とした地球レベルでのウイルス監視活動に基づいて、南半球と北半球それぞれに予想される流行株に対応したワクチン株の選定が各シーズン毎に検討されています。そのために、「抗原性が不一致であるのでワクチンが効かなかった」という事態はほとんど起こっていません。

(4)一般に不活化ワクチンによって賦与される免疫は時間とともに低下していきます。インフルエンザワクチンによる有効な防御免疫の持続期間は3カ月程度と短いので、毎年シーズン前に接種を繰り返す必要があります。わが国ではインフルエンザシーズンの1カ月前くらいである11月頃を中心に接種することが薦められています。

(5)現行のHAワクチンは、精製したウイルス粒子をエーテルによって部分分解し、副反応の原因と考えられる脂質成分の大部分を除去したワクチンです。最近は欧米でも、安全性の面からエーテルや界面活性剤処理による部分分解ワクチンが広く使用されるようになってきました。これらは全粒子ワクチンに比べると免疫原性は若干低いと評価されていますが、欧米における成績を見ると実際上はワクチン効果に大きく影響するものではありません。従って、「わが国のインフルエンザHAワクチンは欧米のワクチンに比べて力価が低いので、ワクチンの効果に関する欧米の成績はわが国のワクチンには適用できない」との批判は現在では根拠が無くなっています。

(6)現行のインフルエンザワクチンは皮下接種されています。しかし、不活化ワクチンの皮下接種では、インフルエンザウイルスの感染防御に中心的役割を果たすと考えられる気道の粘膜免疫や、回復過程に重要であると考えられる細胞性免疫がほとんど誘導されません。これは、インフルエンザウイルスの感染そのものを防御すると言う面では大きな短所であると考えられています。
 しかし、この様な欠点を持ちながらも、先に述べたように、ハイリスク群に対する現行インフルエンザワクチンの効果は明らかに認められています。また、ワクチンの皮下接種でも血中の抗体産生は十分に刺激できるので、インフルエンザに続発する肺炎などの合併症や最近問題となっているインフルエンザ脳炎・脳症の発生を抑えることには期待出来ると考えられています。

(7)遺伝子の突然変異によって頻繁に抗原変異を起こすインフルエンザウイルスでは、感染をうけたウイルス株や接種されたワクチン株に対してよりも、以前に感染またはワクチン接種を受けた昔のウイルスに対する抗体産生をより強く刺激するという抗原原罪現象が認められます。従って流行が予想されるウイルス株をワクチンとして接種しても、このウイルスに対する免疫刺激が減弱されてしまい、これを繰り返していくと目的とするウイルスに対する免疫が十分に誘導されなくなってしまう(ホスキンス効果)との報告があります。
 確かにこのような抗原原罪現象が起こらなければ、ワクチンの効果はもっと高くなるのかもしれません。しかし、このような現象が起こるにもかかわらず、ワクチン接種によって目的とするウイルスに対する血中抗体は十分に上昇しますし、先に述べたようにワクチンの有効性は明らかに認められています。

(8)現行のイインフルエンザワクチンの副作用に関しては、発育鶏卵の品質管理、精製技術の改良やエーテル処理による発熱物質の除去などの技術的な進歩によって、1971年以前の全粒子ワクチン時代に問題となった発熱や神経系の副作用は大幅に減少しています。
 しかし、約100万人に一人の割合で重篤な神経系の健康障害が生じ、後遺症を残す例も報告されています。ワクチンは健康被害を防ぐ目的で接種されるのであり、これによって健康障害が生じることは大変残念なことです。これらの原因については良く解っていませんが、被害者の救済・補償が十分に行われる体制を整備するようにしていく必要があります。
 一方、まれに起こる健康障害が強調され過ぎて、ワクチンの有用性に対する一般の理解が後退し、ワクチンの恩恵を受けられなくなることも逆に残念なことです。ワクチン接種の際には、問診表に体調などを正しく記入し、発熱など体調が悪い時にはワクチン接種を避けるなど、医師と十分に相談して接種することが必要です。
 また、インフルエンザワクチンには微量ながら卵由来の成分が残存していますので、これらによって発赤やじん麻疹などの局所反応やアナフィラキシー・ショックが出現する可能性があります。卵アレルギーの人はワクチン接種を避けるか、注意して接種する必要がありますので、これも医師と相談してください。